中枢神経細胞は一般に分裂する能力を持たないため、死んだ神経細胞が再生することはない。老化時やアルツハイマー病・ハンチントン舞踏病などでは神経細胞が変性・脱落し、たちまち高次神経機能は障害をもたらす。しかし、神経細胞の死を防ぐ有効な手段は未だに全く無く、神経細胞死をもたらす原因も不明である。本研究は環境を完全に制御した培養状態に神経細胞をおき、神経細胞の生存とストレス蛋白質(熱ショック蛋白質)の発現の相関を解明することを目的とした。ラット胎児脳から海馬を摘出して培養し、生存に対する熱ショック蛋白質の作用を解析した。熱ショック(42℃、30分)を与えると培養海馬神経細胞の生存が著しく高められた。この生存促進作用は、培養密度に関係なく観察されたので、神経細胞やグリア細胞に対する直接作用と考えられた。熱ショック時におけるHSP70 mRNAの変動をノーザンブロットおよびin situハイブリダイゼーションによって解析した。熱ショック後にmRNAレベルが増加していることが確認できた。HSP70に特異的な抗体を用いて蛋白質レベルの変動を検討した結果、蛋白質レベルでも誘導が確認できた。また、核に最初に発現しそれが時間経過に伴い細胞全体に広がることを明らかにした。さらにアンチセンスオリゴヌクレオチドを熱ショックと同時に添加すると、熱ショックによる生存促進作用およびHSP70蛋白質の発現が完全に抑制することを見いだし、熱ショック蛋白質と神経細胞の生存の関係を直接示すことができた。
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