研究概要 |
我々は、癌細胞と宿主細胞に介在する走化性サイトカインであるケモカイン(chemokine)に注目し、chemokine遺伝子導入癌細胞を用いて増殖と転移における役割解明のための研究を進めた。BALB/cマウスの足蹠に、MCAF、IL-8、LD78のchemokine遺伝子を導入した当該マウス種由来の結腸癌細胞を移植して、腫瘍形成能、転移能、腫瘍へのマクロファジ-(MΦ)浸潤について比較した。その結果、LD78遺伝子導入株で著しい抗腫瘍効果が認められたのに比し、MCAF、IL-8遺伝子株では抗主腫瘍果は認められなかった。また、自然肺転移能はMCAF遺伝子導入株で亢進していた。実験的肺転移モデルでも検討したところ、免疫不全マウス(BALB/c nu/nu,SCID)を用いた場合、MCAF遺伝子導入株の転移が正常マウスり減少して居ることがわかった。このことは、MCAF遺伝子導入癌細胞の接着浸潤の過程にT細胞が関与していることを示唆している。MCAF遺伝子導入株を足蹠に移植後、腫瘍へのMΦ浸潤は初期には著しく増加していたが日を追って減少した。このとき、ELISA法で測定した血清中のMCAF濃度は、in vitroでの解離定数(Kd)値を越えており、かつ走化性と相反して増加していた。一方、LD78遺伝子導入株の癌組織にはapoptosis様の細胞死が起こっていた。LD78遺伝子導入株を拒絶したマウスの反対側の足蹠に親株を再チャレンジしたところ全例が拒絶され、強い全身性免疫能を獲得していることがわかった。 以上ケモカイン遺伝子の導入によりマウスに腫瘍免疫が誘導されることが立証された。
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