研究概要 |
本年度は各種脳機能改善薬が,受容体以降のレベルすなわちセカンドメッセンジャー系にどのような影響を及ぼすかについて,細胞内情報伝達系の一つであるイノシトールリン脂質代謝回転系を選択し、膜結合型ホスホリパーゼCおよび細胞質型ホスホリパーゼC活性を指標として直接作用の面から検討を行った。今回使用した各種脳機能改善薬(ビンカミンアルカロイド類、キサンチン誘導体、ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬、ゲンゾキノリン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピロリジン誘導体)のうちビンカミンアルカロイド類、キサンチン誘導体およびジヒドロピリジン誘導体は、in vitro添加により膜結合型ホスホリパーゼC活性を上昇させた。さらにビンカミンアルカロイド類およびジヒドロピリジン誘導体は、細胞質型ホスホリパーゼC活性をも上昇させた。これらの薬剤のうち、ビンカミンアルカロイド類によるイノシトールリン脂質代謝回転系増加のメカニズムについて検討を加えたところ、[^3H]QNB結合を用量依存的に抑制したことおよびGTPによる[^3H]QNB結合の抑制作用を打ち消したことより,ムスカリン受容体およびムスカリン受容体と共役したGTP結合蛋白を介する刺激することによりイノシトールリン脂質回転系を上昇させることが判明した。しかしながら,ビンカミンアルカロイドによるイノシトールリン脂質代謝回転系増加作用は,ムスカリン受容体拮抗薬のアトロピンにより拮抗を受けない部分が約50%認められたことよりホスホリパーゼC活性を直接活性化する作用を有することも認められた。以上の結果より,脳機能改善薬の中にはその作用機序として,細胞内情報伝達系に対する直接作用が含まれる可能性が考えられることを明らかにした。
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