研究概要 |
制癌剤ばかりでなく硫酸銅による嘔吐もセロトニンを介することが判明した.さらに,ジギタリスやドパミン作動薬による嘔吐も迷走神経求心路を経て嘔吐中枢に至ることや,これらの嘔吐もセロトニンと密接な関係をもっていることが明らかとなった.また,これらの薬物による嘔吐の発現時間と一致して,フェレットの迷走神経活動が上昇することが確認された.迷走神経を横隔膜のレベルで切離すると制癌剤誘起性嘔吐の8割が抑制され,嘔吐中枢を含む延髄最後野のセロトニン含量が正常レベルに抑えられた.これらの事実より嘔吐発現の主要な経路は腸管より迷走神経求心路を経て嘔吐中枢に至るルートであることが示唆された.制吐薬である5-HT_3拮抗薬を前投与し制癌剤を投与すると腸管のセロトニンレベルは2倍に上昇したままであったが,嘔吐中枢のセロトニン含量は有意に抑制されていた.すなわち,セロトニンが嘔吐誘発に関与する神経伝達物質であることも示唆された.セロトニンレセプターについて検討したところ,従来の5-HT_3レセプターのほかに5-HT_<1A>ならびに5-HT_4レセプターの関与が示唆されたので現在追求している.セロトニンの律速酵素であるトリプトファンハイドロキシラーゼ活性が上昇し,セロトニンの代謝酵素であるモノアミンオキシダーゼ活性が制癌剤によって抑制されることも見出している.制癌剤や硫酸銅がフリーラジカルを産生するので,嘔吐の関連性を検討しはじめた.セロトニン脱顆粒は多くの因子が関係するが,最も重要なことは,生体内に分布するセロトニンの90%を産生し遊離するエンテロクロマフィン細胞を培養し実験に供することにある.鋭意努力している.
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