非ステロイド系抗炎症薬ジクロフェナックナトリウム(DC)10mMをラット大腸内潅流後の粘膜障害について検討した。その結果、前年度、トリニトロベンゼンスルホン酸(TNB)や酢酸を用いて、作製した炎症性腸疾患モデルと同様に、膜抵抗の減少とFITC-デキストラン4000(FD-4)の膜透過性の上昇が、潅流終了後継続的に見出された。このときの膜抵抗の逆数である膜コンダクタンスとFD-4の膜透過クリアランス間に高い相関が認められ、吸収促進剤の作用下と同様に、細胞間隙経路拡大の可能性が考えられた。さらに細胞からの漏出蛋白量の測定を行った結果、比較のために行った1%Triton X-100処理時の漏出量の4分の1であり、ある程度の粘膜障害が見出された。このとき短絡電流も減少していたが、テオフィリンを漿膜側に添加したところ、短絡電流は増大し、CIイオンの起電的分泌活性は保持されていることが認められた。従って、DFによって、粘膜は障害を受けているが、細胞死にまでは、至っていないことが判明した。なお、このテオフィリンによる短絡電流の上昇は、TNBモデルにおいても見出された。次にTNBモデルを用いて、デキサメタゾン及び5-アミノサリチル酸をエチルセルロースコーティングした顆粒剤による治療効果を電気生理学的に検討した。その結果、短絡電流と膜抵抗は、2週間治療時に正常値への回復傾向が現れたが、病態モデルの症状のばらつきのためか、必ずしも有意な効果としては、捉えられなかった。さらに、東京医大消化器内科の医師グループとの意見交換を行い、炎症のパラ-タとして、免疫性蛋白(IAP)の血中濃度を検討した。その結果、膜抵抗の低下と符号したIAP濃度の上昇が見出され、確かに炎症が発生していることが確認された。以上から、電気生理学的パラメータと膜透過性を用いた評価法の有用性が十分証明されたといえる。
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