炎症性腸疾患時における粘膜異常を、より正確に把握する評価法を確立する目的で、粘膜のバリアー機能及び電解質輸送機能の変化に着目した。(1)ラットにトリニトロベンゼンスルホン酸(TNB)及び酢酸を注腸して作製した炎症性腸疾患モデルについて、膜電位、短絡電位(Isc)及び膜抵抗(Rm)の電気生理学的パラメータの変化と、従来からの肉眼的炎症度(ダメ-ジスコアー)との対応を検討した。その結果、スコアーの増大と上記パラメータ値の減少に、ある程度の関係が認められたが、従来法よりも本研究の評価法の方が客観的かつ鋭敏であることが示された。(2)(1)の方法を酢酸モデルの検討に応用したところ、低下したRmは4日目までに、また増大したFITC-デキストラン(FD-4)の膜透過性は7日目までに正常値に回復した。結局、酢酸モデルは、比較的短時間で自然治癒するが、その過程が本評価法で十分確認できた。(3)ラット大腸にジクロフェナックによる粘膜障害を作製したところ、Rmの減少とFD-4の透過性増大が得られた。これらの変化は吸収促進剤の作用下及び先の病態モデルと類似しており、主に細胞間隙経路拡大が示唆された。細胞内蛋白の漏出も見出されたが、減少したIscはテオフィリンの添加により上昇し、CIイオン分泌に関する一連の膜代謝機能は正常に保たれていることが示された。(4)TNBモデルに対するデキサメタゾン及び5-アミノサリチル酸の治療効果を検討したところ、14日間治療群は対照群よりも、電気生理学的パラメータが正常値へ回復する傾向が大であったが、病態モデルの症状のばらつきにより、有意な効果としては捉えられなかった。以上、本研究で確立した評価法により、粘膜炎症時には起電的電解質の輸送能の低下、水溶性高分子物質の透過性上昇が起こることが見出され、今後は各種腸粘膜障害の定量的評価への応用が期待される。
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