臨床上頻繁に使用される抗不整脈薬であるジソピラミドは、キラルな薬物であり、その光学異性体の薬理効果には大きな差異がある事が知られている。そこで、平成6年度においてはこの薬物をモデルとしてヒト肝ミクロゾームを用いての酵素速度論的検討を行なった。その結果このin vitro実験系におけるジソピラミド異性体の酵素動態はヒトのin vivo薬物代謝を良く反映している事を見出した。また、このヒトでの結果を最も広く使用されている実験動物であるマウスのそれと比較し、ヒトーマウス間には光学異性体選択的なジソピラミド代謝において大きな種差が存在し、その結果マウスを用いた前臨床試験ではこの薬物のヒトにおける効果と毒性の予測に誤りが生じる可能性を明らかとした。この成果は平成6年度中に誌上で発表された。 また、この実験を通じてジソピラミドのヒト肝ミクロゾームにおける代謝がヒト・チトクロームP4503A(CYP3A)酵素の特異的基質であるマクロライド系抗生物質で阻害される事から、ジソピラミドの代謝にこのP450分子種が関与している可能性が示唆されたため、今後平成7年度にかけてこのデータを確認すべく実験が続けられる予定である。
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