研究概要 |
1985年,アメリカNIHのSchlomらは,大腸癌およびその肝ないし脾臓転移巣の抽出液を免疫原として15個のマウスモノクローナル抗体(COL-1〜COL-15)を作製し,その後,これらの中の1つであるCOL-4が,樹立胃癌細胞には存在するが,他の組織由来の樹立癌細胞には存在しない分子量約110KDaの糖蛋白質抗原(Mr 110,000抗原)と交差反応し,この抗原が胃癌細胞の細胞膜に存在することを報告した.また,この抗原は,組織染色パターンや分子量の点から既存のCEA,EMA,CA19-9,CSLEX1などとは異なる新しい腫瘍関連抗原であり,胃癌を識別する新しい腫瘍マーカーとなる可能性がある.昨年度は,この抗原の遺伝子をクローニングし,新しい抗原であることを確認した. 本年度は,Mr 110,000抗原に対する単クローン抗体を作製し,この抗原と交差反応する抗CEA抗体との組み合わせによりその測定系の確立を試みた.この抗原と交差反応する抗CEA抗体は,これまでわれわれが作製していた146個の抗CEA抗体の中に15個存在したので,その中でCOL-4と同程度Mr 110,000抗原と反応する抗体を用いた.一方,この抗原に特異的な抗体は,樹立胃癌細胞MKN-45をヌードマウスに移植して得た固形腫瘍の抽出液から精製したMr 110,000抗原でBALB/cマウスを免疫して得た脾臓リンパ球とマウスミエローマP3-U1との細胞融合により作製し,抗原と特異的に反応する1クローンを得た.この2つの抗体の組み合わせによるプレート固相のサンドウィッチ法で測定系を樹立し,種々の癌患者の血清中の濃度を測定したところ,いろいろな消化器癌でも若干増量していることがあきらかになったが,胃癌でもっとも高い陽性率を示し,今後胃癌の新しい腫瘍マーカーとなる可能性が示唆された.
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