研究概要 |
白血病は遺伝子変異に基ずく遺伝子発現の異常によりある分化段階で分化能力を失った細胞が異常に増殖する疾患である。inv(16)をもつ急性骨髄単球性白血病細胞株ME-1はlL-3,lL-4やGM-CSF刺激に対して分化と増殖の異なる反応を示す3つのサブクローン(ME-F1は分化と増殖が、ME-Fは増殖が、ME-F3は分化が誘導される)が存在する。本研究では白血病の分化・増殖に関する遺伝子を分離する目的で、サブクローン間で発現遺伝子を比較し、その機能を検討した。また、分化・増殖・癌化に関するチロシン特異的プロテインキナーゼ(TK)の発現様式を分離した遺伝子と比較した。Differential display(D.D.法)によりME-F2およびME-F3の細胞間で約5-9万個の遺伝子について発現変化を調べ、ME-F2に優位な遺伝子を35個、ME-F3に優位な遺伝子を54個分離し、塩基配列を解析した。その結果、機能が不明の遺伝子が全体の約9割を占めていた。さらに行ったノーザンブロット解析でME-F3に優位な3遺伝子(4-27(81)、3-3-1、4-18)においては、全てTPAによる分化刺激で発現が誘導され、これらの遺伝子は分化に関連して発現することが示唆された。また、ME-F2に優位な4遺伝子(stathmin,3-7,4-25、1-6)のうちstathminと3-7はTPA刺激で発現が抑制され、増殖に関与することが考えられた。D.D.法による分離した遺伝子とTKのサブクローン間ならびにME-F2のTPA刺激のノーザンブロット解析を比較すると、stathminはc-fesと、また1-6はhylならびにcskと同様の発現様式を示し、これからもD.D.法で分離した未知遺伝子が白血病の増殖・分化に関係している遺伝子であることが推測された。とくに、増殖に強く関与すると考えらる3-7のcDNAは3.5Kbで807個のアミノ酸をコードし、6カ所にロイシンジッパー・モチーフが認められた。また、分化型細胞のME-F3に優位に発現する1-4は1.4KbのcDNAで227個のアミノ酸をコードし、ATP結合モチーフを持っていた。これらの遺伝子の生理学的意義についてはさらに検討するつもりである。
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