β-ガラクトシダーゼは、非還元末端糖鎖のβ-1、4-ガラクトシドを切断する酵素で、その遺伝子欠損症に、GM1ガングリオシドーシス及び、モルキオB病がある。その多様な表現型は、同一遺伝子の変異によるものであり、酵素の基質認識の変化が体内の異常物質の蓄積の量、種類の違いを引き起こすと考えられる。この研究では、正常cDNA及びモルキオB病の点変異W273L、及びガングリオシドーシスの点変異I51T(成人型)、R201C(幼児型)、G123R(乳児型)の各々のcCNAをバキュロウィルス系に発現させ、その発現蛋白の基質特異性の変化を検討することにより、β-ガラクトシダーゼの変異による基質認識の違いと病態との関係を解明することを目的とした。正常及びモルキオB病W273Lの発現蛋白は得られたが、ガングリオシドーシスの点変異の発現蛋白は全て、分泌されずに細胞内に留まった。これらの点変異はバキュロウイルス発現系では、恐らく糖鎖の異常を引き起こしたと思われる。正常及びモルキオB病W273Lの発現蛋白を前駆体蛋白84kDa、成熟体蛋白64kDaに精製分画しその特性を検討した。1)正常の前駆体蛋白と成熟体蛋白では、様々な物理的特性(Km値、至適pH値、界面活性剤に対する影響等)に違いがあり、各々固有の値を持っていた。2)W273Lの前駆体蛋白のKm値は正常と同じだが、Vmaxは20分の1に低下していた。3)W273Lの成熟体蛋白は、活性を全く失っていた。4)さらに基質アナログの一つであるp-aminophenylβ-D-thiogalacto pyranosideに対する結合能も低下していた。5)W273Lの前駆体蛋白は、天然基質であるGM1ガングリオシドを切断したがモルキオの蓄積物であるケラタン硫酸は殆ど切断しなかった。モルキオB病が、ガングリオシドーシスのように重篤な知能障害を引き起こさないのは、脳に蓄積するCM1ガンドリオシドの認識部位であるβ1-4ガラクトースを変異前駆体蛋白が認識出来ていることによるものと思われる。
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