著者らは、乾燥大豆は、2価鉄塩の薄い溶液に浸漬したあと濃い食塩溶液に浸漬することによって、煮熟軟化が著しく促進されることを明らかにし、すでに報告した。この二段階浸漬による軟化は、2価鉄イオンが大豆組織のペクチンに作用してこれを溶解させることによって引き起こされると考え、浸漬段階およびその後の煮熟におけるペクチンの変化を、2価鉄イオンによるペクチンの可溶化とその作用機構に焦点を絞り、実験と理論計算の二つの方向から追究した。まず、2価鉄塩の溶液に浸漬した大豆は水溶性ペクチンが増加しヘキサメタりん酸可溶性ペクチンおよび塩酸可溶性ペクトンは変わらないこと、大豆から溶出してくるペクチンは2価鉄塩溶液浸漬後に食塩溶液に浸漬することによって増加し、この溶出は加熱することによってさらに促進されること、このような2価鉄塩の効果は3価の鉄塩では見られず、対イオンである陰イオンの種類には関係ないこと、溶出ペクチンはわずかながら低分子化していることを明らかにした。次に、大豆子葉から調製したアルコール不溶性固形物(AIS)でも、二段階浸漬およびその後の煮熟によってペクチンの溶解が顕著に進むこと、AISに種々の酵素を作用させたときのAISからのペクチンの遊離は、セルラーゼで最大となるが、2価鉄イオン浸漬で可溶化されてくるペクチンの割合はプロテアーゼを作用させたAISで最大となることを明らかにした。次に、ペクチン分子への2価鉄イオンの作用部位をペクチンの主要構成単位であるα-D-ガラツクロン酸残基と想定し、非経験的分子軌道法および半経験的分子軌道法による計算を行った。構造の簡単なカルボン酸イオンとマグネシウムイオンの錯体についての計算の結果と、α-D-ガラクツロン酸イオンモノマーおよびタイマーの最適化された構造、およびその静電ポテンシャルから、2価鉄イオンの作用部位を推定した。
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