今年度は三陸沿岸地域の青森・岩手・宮城の三県における既往の津波被害と集落移動の関係について検討した。まず、明治三陸津波および昭和三陸津波の被害と集落移動との関係に対する要因分析の結果、両地震とも集落移動の有無に一番大きく関与している要因は物的被害であり、戸数により表される集落規模も比較的大きな影響を与えていることがわかった。ここでとりあげたアイテムは集落戸数、死者率、流失・倒壊率、地域であり、昭和津波に関してはさらに明治津波による集落移動の有無を加えた。なお、地域のカテゴリー区分は宮古以北と以南で分けた。その理由は宮古以北では海岸段丘が発達しており、段丘上に若干の耕地をもって古くより自給自足の生活を営んできた村々が多く、この地域では農漁村というよりは一部の村を除いて山村の特色を有すると思われることによる。 次に、上記の二つの津波にチリ地震津波を加えて集落移動の防災効果について検討した結果、全体的に明治津波以後移動した集落の方が被害が小さい傾向があり、とくに流出倒壊率が50%を超える集落のほとんどは、前回移動しなかった集落であることが判明した。したがって、市町村別、字別のいずれにおいても被災後の集落移動は、次の津波における被害を減ずる上で一定の効果を有することがわかった。 なお、以上の他に集団移動・分散移動・原地復興といった、集落移動の形態と被害程度との関係についても検討したが、両者の間に明確な相関性は見出せなかった。
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