本研究では、集落移動や家屋移動を取り上げ、災害に立ち向かう姿勢とは視点をやや異にして、被害を避けるという立場から有効な防災対策について考察することを目指した。内容は大きく2つに分かれる。まず、第1に過去100年間に3度にわたり津波により大被害を受けた三陸沿岸地域を取り上げ、マクロな視点から集落移動に関わる要因を探った。第2に1974年伊豆半島沖地震で被害を受けた静岡県南伊豆町の3集落について、アンケートと聞き取り調査を実施した結果に基づき、家屋単位の移動と復興についてややミクロな視点から追究した。 結果を要約すれば以下のようである。まず、集落移動を決定づける要因として、第1に物的被害の程度があげられ、被害が大きくなるほど移動が起こりやすい。集落規模と移動の関係は、基本的には規模が大きくなるほど移動が起こりやすいが、最大規模と最小規模のランクではほとんど移動がみられなかった。また、移動形態を被害程度によって明確に判別するのは難しいが、集団移動は比較的小規模の集落にみられる。三陸沿岸地方では、集落移動したことによって、つぎの津波災害による被害を低減させる効果がみられた。 伊豆半島沖地震については、斜面崩壊で危険地区に指定された地域の住民は強制的に移動させられたため、三陸沿岸地域のように被害程度と移動を明確に関連づけることができなかったが、人的被害についてはけが人が発生した家屋のほぼ全てが移動しており、この点では相関性がみられる。また、居住年数は長く、建築年数は短い方が移動の比率が高かった。
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