人体-衣服系の形状的関係を明確にし、衣服設計を理論的に分析する目的で、体幹部において特に複雑な構造や機能を持ち、しかも形状変異の大きい肩部について3次元計測を実施し、一つには上肢帯を基本にした特徴分析による類型化を、また一つには衣服原型の基と考えられる体表展開図と肩部形状との対応関係を調べた。以下に結果を述べる。 1.体表にマークを施した人体全周形状を5秒以内で4方向の距離画像として計測最大誤差【+-】0.3〜0.6%で計測可能なシステムを人体上半身計測用に整備した。 2.肩部復元石膏標本57例を対象に行った生体計測値による特徴抽出の結果、肩部の特徴として前肩/後ろ肩(肩の前後への振り)、なで肩/怒り肩(肩傾斜)、屈身/反身(体幹部の側面形状)の要因が合成された形で抽出され、肩部形状に関する類型を定義できた。 3.類型化された肩部の体表展開図を生成して肩部の構造に着目した衣服設計上の基本要素を分析した結果、これらの特徴は展開図上ではいわゆる衣服原型でいうダ-ツの長さや角度、前後の見頃の幅のバランス、肩縫目線の傾斜、頸付根部の繰りの深さなどに量的差異として表れ、衣服原型設計の際の体つきに関する留意点として理解された。これらの特徴を見ると、前肩/後ろ肩、屈身/反身の特徴では、立体としての肩部の特徴は異なっていても、展開図上では、たとえば後正中線に生じるダ-ツの変異などは同じ特徴として表れた。このことは、肩のそれぞれの部位が単独で動いているのではなく、上肢帯という構造を基本にして全体として有機的に連関を保っていることを意味すると理解できる。複雑な外形を有する肩部を上肢帯の位置関係と関連させて考察し、その展開図の特徴を検討することによって、肩部の形状の変異を単純化された明確さで分析できた。これらの結果は、衣服設計における肩部の衣服適合条件についての手がかりとなると考える。
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