近年、日本では、骨粗鬆症の原因ともなるカルシウムの摂取量の不足が問題となっている。日本人は、昔から魚を多く摂取しており、骨ごと食べられる小魚は、重要なカルシウム供給源の一つといえる。そこで本研究では、魚の骨を有効利用するための基礎的な研究として、魚の骨を水の中で加熱したときの物性および成分の変化について調べようとした。試料は、新鮮なマアジの脊椎骨を用いた。骨に付着している肉や神経を除去したのち、マアジの骨を、水の中で数時間加熱した。レオメーターを用いてマアジの骨の破断強度を測定した。マアジの骨および魚骨成分の煮汁中への溶出は、粗タンパク質をケルダール法により、カルシウムなどの無機成分を高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定した。 マアジの骨の厚さの80%まで圧縮するのに要する最大荷重は、30分間で急激に低下し、その後も加熱時間が長くなるにつれて徐々に低下した。魚骨の重量は、30分間の加熱によって低下し、その後も加熱時間180分まで徐々に減少した。魚骨の水分は、加熱時間が長くなるにつれて僅かずつ増加した。加熱時間が長くなるとともに、マアジの骨のタンパク質は減少し、加熱液中のタンパク質は増加した。マアジの骨は、加熱時間が長くなるとともに軟化していたが、骨のカルシウムの大部分は、骨に残っていた。これらのことから、マアジの骨が水中加熱されることにより軟化したのは、マアジの骨のタンパク質の一部が加熱液中に溶出し、マアジの骨の構造が変化したことによるのではないかと考えられる。
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