要介護老人を取り巻く問題は、日常生活の多方面にわたっており、非常に複雑である。中でも生活の快適性を直接左右する寝環境の問題は、非常に重要であるが、科学的に考察した研究は少ない。本研究では、まず、特別養護老人ホーム入所者の寝具と寝衣、および日常着の実態調査を行った。入所者の身体的状況は多種であり、種々な衣服形態が観察された。しかし、着用後の手入れが介護者側で考慮されるためか、デザインや色彩に乏しい傾向がみられた。要介護老人にとって、カラフルなデザインや色彩の寝衣は、数少ない楽しみのひとつだと考えられる。要介護老人の意見を収集し、介護が楽な寝衣を検討したいと考えている。次に、環境の衛生条件を検討した。騒音や照度の問題は、調査を実施した特別養護老人ホームでは問題は認められなかった。騒音や照度の客観的な測定は次年度実施したいと考えている(騒音計と照度計は本年度用品)。いっぽう、寝具や人体を含めた環境の衛生では、臭気の問題がクローズアップされている。特に長期臥床の要介護老人の場合、臭気の問題は避けて通れない。実験では、臭気が測定しやすい口臭を測定したいと考えている(口臭チェッカーは本年度用品)。また、繊維製品の臭気吸収性と放出性を明らかにするため、モデルの臭気を用いて実験的に検討している。現在までの実験においては、天然繊維の臭気吸収性は合成繊維よりも高い傾向が認められた。しかし、吸水性や吸湿性の点からいえば、要介護老人の繊維製品は天然繊維が望ましく、最適な繊維である。臭気の原因である微生物の増殖を阻止すべく環境の清潔を計らなければならない。本年度の備品であるコンピュータは、実態調査のデータ解析、および文献調査に活用している。
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