本課題研究は、平成6年度を初年度としたものであり、最初の2年度は比較分析的研究の基礎資料を用意することに重点を置いた。ケプラーの楕円法則はフランスのイエズス会宣教師F.フ-ケ-を通して、初めて中国への導入がなされたことが今回発見された彼の手稿『暦法問答』の分析によって明確になった。最初に発見したヴァチカン図書館の手稿は、今回発見・収集したブリティッシュ・ライブラリーによって不完全本であることがわかったが、両版の比較分析研究の結果、リッチョリの『改革天文学』(1665)などの理論書、およびカッシ-ニの天文學書やラ・イールや『天文表』の原典などが、中国へのケプラー法則を導入するための底本になっていることが明らかになった。このように本課題研究において最も重要な史料ともいうべき、北京で完成されたケプラーの法則導入に関わる中国文献であるブリティッシュ・ライブラリー所蔵の完全手稿が発見されたことが本研究課題の実施過程のなかでの最大の発見である。今年度はその系統的な解読を開始し、底本との比較、および最近のヨーロッパにおける数理天文学史の研究成果を参照して、1710年代というこれまで考えられていたよりも25年も早く楕円運動論が東アジアに伝えられた歴史的意味を明らかにするための作業を遂行し、来年度の最終報告のための予備的研究に重点を置いた。そのなかには、すでに入手していたヴァチカン版と比較研究するために、最も基本的位置を占めるブリティッシュ版の『歴法問答』をマイクロフィルム化して取り寄せマイクロリーダー焼き付けを行なって資料を整理するという作業があった。
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