目的:“筋記憶"という現象が現場で経験的に語られている。すなわち、ある時期にトレーニングした者は、脱トレーニングによって効果が一見消失した後でも、再トレーニングにより速やかに鍛練された状態に戻るという。この現象のメカニズムに迫ることが本研究(平成6〜8年度)のテーマであるが、今年度はトレーニング効果の保持という観点から、筋力トレーニングの最小頻度に着目した。筋力トレーニングの効果を顕在化させる最小限の頻度については現在あまり議論されておらず、従来からの「2週間に1回という低頻度では効果はない」という見解が一般的である。そこで、改めて低頻度の筋力トレーニングの効果の有無について検討した。また、トレーニング効果の個人差についても検討を加えた。 方法:被検者は通常特別な筋力トレーニングを行っていない健康な男子大学生20名(21.2±0.8歳)であった。週1回以下の頻度(24週間に3〜13回)で動的可変抵抗式マシーンによる筋力トレーニング(10RMで10回またはそれ以下の回数を1〜4セット、あるいは4RMで4回またはそれ以下の回数を1〜3セット)を行い、第1、10、24週目に当該マシーンによる筋力測定を行った。測定指標には4RMでの最大発揮筋力を用いた。トレーニングおよび測定に用いた動作様式は、肘伸展・屈曲、肩水平屈曲、膝伸展・屈曲とした。 結果:いずれの動作様式でも、第1週目と比べて、第10、24週目に発揮筋力の有意な増加を認めた。24週間のトレーニング頻度と各筋力の増加率については相関を認めなかった。しかし、各筋力(肘屈曲筋力以外)の初期値と24週間の増加率との間には有意な負の相関を認めた。以上、1)非常に低頻度の筋力トレーニングによっても発揮筋力は増加し、2)その効果は比較的早い時期に顕在化して保持され、3)このようなトレーニングでは効果の大小はトレーニング頻度とは無関係であり、4)筋力の初期レベルが低い者程筋力増加の程度が大きいことを明らかにした。
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