2年計画の一年目として今年は、以下のような研究を行った。 (1)「競技引退」に関する先行研究の概観並びにモデルの設定 この種の研究は北米を中心に行われており、実証的研究の少ないことが認められた。また、理論モデルとして、社会的老年学理論・死学的理論・中年期における移行理論、等が個別に援用されている。そこで、本研究では、競技期・引退期・再適応期の3期からなる「統合モデル」の構築を行った。 (2)相談ケースのまとめ 心理相談室で出会った競技スポーツ離脱者の面接記録の分析を行った。現時点では次の5事例である。「情緒面での一時的な混乱を呈した女子剣道選手」「内科疾患による競技継続不能を受容するまで」「同一制の再確立を迫られ、たじろいでしまったケース」「バーンアウトしてしまったある競泳選手」「いわゆる外傷体験を招いた退部の例」といった事例である。いずれも、離脱後の適応過程では、同一性の再確立が中心テーマとなっている。 (3)質問紙調査 T大学を中心に、学生時代並びに卒業後も一定期間、高いレベルで競技を継続し、その後現役を退いた者110名に対して、質問紙調査を行った。質問紙の構成では、先に述べた統合モデルの検証をも兼ねている。現時点での回収は40部ほどであり、それらの資料の分析を進めているところである。また、調査対象者の一部に対しては、さらに面接により詳細な情報収集を行っているところである。
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