申請者は、すでに、スポーツ参加実施と参加促進因子・阻害因子の相互関連に基づき、擬似的スポーツ参加者や擬似的スポーツ参加希望者の存在を指摘し、そこには、スポーツ参加という社会的な行動とその意志決定の間には、参加動機、促進・阻害因子、脱退理由が複合的で重層化している可能性を指摘した(海老原、1993)。この可能性を検証するには、同一の被調査者を縦断的に追跡する手法が求められる。 本研究では、神奈川県横浜市神奈川保健所と社団法人日本歩け歩け協会という2つの機関の協力を得て、縦断的調査を実施した。神奈川県横浜市神奈川保健所が主催する「トータス・ウォーキング・セミナー(平成8年度よりウェルネス・ウォーキング・セミナーと改名)」の累積的参加者279名、および(社)日本歩け歩け協会ならびに富士河口湖ラベンダーマ-チ実行委員会による「第3回富士河口湖ラベンダーマ-チ(平成6年7月開催)」参加者489名を対象に、平成6年4月から平成8年7月下旬までのウォーキング参加経歴ならびにスポーツ参加経歴を縦横断的に追跡しパターン分析に基づき、継続や脱退の意志を決定する参加動機、参加促進因子、参加阻害因子、脱退理由の相互関連を検討した。 すなわち、擬似的スポーツ実施者は、「運動すると疲れる」ので「運動するのが面倒である」と感じているが、運動やスポーツになんらかの価値を見いだしているので、自身をスポーツ実施者と認識している。したがって、運動やスポーツに参加できないのは、金、指導者あるいは時間の不足に起因していると考え、これらを参加阻害因子としてあげている。しかしながら、金、指導者、時間が、運動やスポーツを行おうとする際の決定的な阻害因子ではないと推論できる。このような「運動するのが面倒である」「運動すると疲れる」といった消極的の態度を理由に、運動やスポーツに参加しないと公言するよりは、時間、金、施設などの形式的な理由をあげることによって、自身のスポーツに対する消極的な姿勢を覆い隠している。あるいは、擬似的スポーツ参与者は、「運動すると疲れる」や「運動するのが面倒である」という態度を、経済的要因や時間的要因で偽装していると指摘できる。
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