研究概要 |
高齢化社会をむかえる20世紀末の今日における,国民の健康体力問題を解決する糸口として,1980年代に隆盛したスポーツ・フィットネスの実践と普及が注目されている。具体的には「走り」「泳ぎ」「踊り」さらには「歩き」が推奨され,しかも系統発生的には先天的技術と考えられている「走り」「歩き」にも技術指導がなされるべきであるという認識が定着しつつある。本研究の第一目的は「歩走動作の指導」コンセプトの呈示である(研究発表の項,「図書」参照)。 歩き・走りの指導にはトレッドミルが用いられ,圧力板上にトレッドミルを設置し,裸足・シューズ・革靴などの履物の有無・種類が大地反力や重心運動にどのような影響を与えるかを力学的に記録し,さらにその動作をビデオカメラで撮影して,ほぼ即時的に被検者にその結果をフィードバックした。「歩幅を長くせよ」「腕を大きく振れ」「前傾姿勢にて歩け・走れ」の言語指示に対する動作改善のスピードが向上するシステムが開発された。 一方,歩や走を長時間遂行するには,被検者の体力水準の高低によって運動成果が異なる。それの劣る低体力者には,テニスや空手の素振り動作を指導し技術向上を体力向上の動機付けとして,実験的に短期間の集中・指導を試みた。 テニスマシーンから打ち出されるボールを乱打することと,空手のキック動作をビデオ撮影し,それを直ちにフィードバックすることで被検者の運動意欲は向上した。 本研究によって,従来の指導者と被指導者の間に成立する言語指示だけによる技術指導よりも,動作のビデオフィードバックと力学的パラメータの呈示によってなされる指導の方が被検者のスポーツ・歩・走・運動に対する意欲と技術増進に寄与することが大であるとの示唆を得た。総力学的な分析成果として,空手のキック動作における重心速度変化の技術差について,別項の通りの知見を得た。(研究発表の項,参照)。
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