研究概要 |
ヒトが高体温になると、顔面・頭皮の静脈血が眼角-眼静脈、導出静脈経由で頭蓋内に流れるようになる。その機序と個人差を解明する目的でこの研究を行なった。 健康な成人男子を被験者として、レーザードップラー血流計と超音波血流計を用い、人工気象室においた加温箱による全身加温時あるいは自転車エルゴメータ運動(負荷:漸増的負荷、60%Vo2max,30%Vo2max)による体温上昇時の眼静脈の血流(その方向と流速:Qov)を前額部皮膚血流量(Qsk)・発汗量(msw)鼓膜温(Tty)、食道温(Tes)平均皮膚温(Tsk)の変化などと同時測定した。環境温度や体温の上昇の手技如何にかかわらず熱負荷開始後間もなく増加したがQovの方向の変化はそれとは著しく遅れておこった。この変化のおきる閾値鼓膜温は受動的体加温によっても運動によっても同じ温度あった。しかし皮膚温は受動的体加温の方が高かった。この結果から眼静脈の血流方向の変化は、中枢の温度レベルに依存して起きるものと推察された。また、この血流方向の逆転の個人差についてしらべた。その結果、受動的体加温では25名中18めいに、60%の運動では13名中10名に、漸増的負荷運動では8名中6名に、この方向の変化が観察されたが、Qovの方向の変化が起きない被験者は20%程度存在し、この機序の発現には個人差が存在することが示唆された。また体温の上昇に対するQovの増加の割合を示す直線の傾きを検討した。この直線の傾きは60%の運動負荷時が最も急で、ついで漸増負荷運動時、受動的体加温時はこの傾きは最も緩かった。熱負荷の違いによってQovの反応性が異なる事が示唆された。
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