研究概要 |
本研究の目的は,運動機能障害者の廃用がもたらす体力の低下を防ぎ,向上を図るために,運動の駆動力である筋機能を取り上げ,筋萎縮のメカニズムや特性を明確にし,これに基づく評価と機能改善を追究することである。特に,筋機能の指標として筋電図および筋力という情報に加え,第3の情報としての筋の機械的活動を反映する「筋音」に注目し,筋電図→筋音→筋力という一連の変換過程の解析を通してこの課題にアプローチした。実験的研究として,痙直型脳性麻痺患者を対象に,肘関節伸展動作を行った際の上腕二頭筋の最大筋力(MVC),次いで,MVCの50%まで様々な筋力レベルでの筋電図(EMG)と筋音(AMG)を記録した。また,上腕二頭筋の筋断面積をX線CT像から測定した。脳性麻痺患者の最大筋力は,筋断面積で正規化しても,健常者の約半分であり,筋力低下を確認させた。脳性麻痺患者および健常者共に,筋断面積当りのEMGおよびAMGは筋力レベルが増すに伴って漸増した。筋断面積当りのEMGは何れの筋力レベルでも両被検者群間に有意な差を示さなかった。一方,筋断面積当りのAMGは全ての筋力レベルで健常者より脳性麻痺患者の方が有意に小さかった。EMGに対するAMGの比AMG/EMGは最大筋力の30%以下では両群に差がなかったが,それ以上では脳性麻痺患者の方が有意に小さかった。こうした結果から,脳性麻痺の運動機能障害は神経機能のみならず筋機能にも関連しており,特に筋機能では筋線維萎縮が存在することが推察された。また,この筋萎縮は速筋線維により進行していることも示唆された。
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