この研究では持続的農村とはいかなるものであるか、また持続的農村の実現のためにはどのような条件が必要であるかを、主として関東地方と中部地方の稲作農村、酪農農村、果樹農村、園芸農村などの事例研究を通して明らかにした。さらに既存の内外の文献や、カナダとニュージーランド、フランスなどにおける調査結果とも比較対照した。事例農村における調査項目としては、自然条件、土地利用と景観、農業経営、中枢施設、経済的基盤、集落の起源、人口構造、社会組織、年中行事、コミュニケーションの実態、将来計画などを取り上げた。これによる研究成果を、日本地理学会や人文地理学会、国際地理学会の持続的農村システムに関する筑波国際会議において口頭発表する一方、学術雑誌や紀要において論文として公表した。また、上記の国際会議の報告書であるGeographical Perspectives on Sustainable Rural Systems の出版にあたって、研究代表者も編集者の1人となった。 この研究の結論として、基本的には(1)経済的安定(高い収益性の農業あるいは安定した農外就業)と(2)社会的・文化的安定(農村住民の安全で質の高い生活)を維持しながら、(3)十分な食料生産機能をもち、かつ(4)環境保全がはかられていることが、持続的農村の目安となることがわかった。このような持続性を実現する鍵となるのが、強い人間的結びつきに基づくコミュニティーがうまく機能を果たしているかどうかである。日本で持続的性格の強い農村の事例として取り上げたものの多くは、基盤整備が遅れたり、周辺地域よりも急傾斜地にあったり、権威のある寺社が存在したりして、伝統的人間関係が残り、これがもとになって(当然ながら現代的に改善されて)、持続的農村が実現されている場合が多かった。急速な都市化と工業化によって失われてしまった伝統的な農村コミュニティーに代わって、いかに新しいコミュニティーを育成し、それを機能させていくかが、現代の農村に課せられた重要な課題である。
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