本年度は、主として、中国の最先進地域である江蘇省について、中心地システムの変容に関する資料の収集と、その分析をおこなった。中華民国時代の資料については、おもに天理図書館、京都大学人文科学研究所において、地方誌類の閲読・複写により収集した。解放以後の資料については、おもにアジア経済研究所および国会図書館における統計書・地図類の閲読・複写により収集するとともに、購入可能な近年発行の統計書・地図類に関しては、直接それらを購入した。 収集したおもなデータは、(1)各時代の中心地の規模を表現する、中心地毎の戸数・人口・商業販売額・工業生産額、(2)中心地の機能を表す、中心地毎の立地施設(市場・主要商店・主要サービス施設・行政機関・教育機関・宗教施設・軍事施設など)の数と種類、(3)中心地の空間的配置状況を示す、大縮尺地図上に示された中心地の分布図と、各中心地の交通条件などである。収集されたデータは、研究補助者の協力をえながら、統計的に分析され、また必要に応じて地図化された。 分析結果の解釈については、現在なお検討中であるが、本研究のスタートに際して構想した作業仮設が、ほぼ実証されるものと思われる。すなわち、(1)民国時代には、前近代的様相を残し、徒歩交通に依存し、伝統的な集市の役割が強い、供給原理にもとづく中心地パターンが卓越していた。(2)解放後から文化大革命にいたる社会主義化の時代には、商業の社会主義化の進展とともに、行政機関の重要性の増大に伴い、行政原理にもとづく中心地配置が展開した。(3)現在に至る改革開放政策下の市場原理導入の時代には、商業活動の自由化や集市(自由市場)の復活が見られるが、同時に交通手段の近代化も進展し、むしろ交通原理にもとづく中心地配置が進展しつつある。
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