研究概要 |
江戸時代にわが国で作成された刊行世界図が藩庁文書中にどのくらい現存しているかを明らかにするため,前年につづき各地の所蔵先へ出向いて調査を進めてきた.時間的な都合により,必ずしも目的の調査を全国的に完了するには至らなかったが、およその概要は掌握できた.調査結果に基づき,現存する刊行世界図の数量,種類,刊行時期などを所蔵先別に整理して一応,その概況をまとめてみた. 江戸時代地図発達史の観点で,わが国で作成された世界図は第1期(慶長〜寛永),第2期(正保〜天明),第3期(寛政〜弘化),第4期(嘉永〜慶応)の4期に分けることができる.それに対応する世界図の種類は,第1期は刊行世界図は未だ現れず,手書きによる南蛮系世界図があるのみである.第2期にはマテオ・リッチ系の卵型世界図,第3期には蘭学系両半球型世界図が登場して,それぞれ刊行世界図作成の主流となった.第4期に至るとオランダよりもフランスやイギリスからの影響が強まり,メルカトール図法系の方格型世界図が主力となって明治期へ入る.第2期の世界図は残存数は少なく,第3期の両半球型世界図および第4期の方格型世界図の現存は比較的多い.鎖国体制にありながらも,江戸時代後期になると諸藩の多くが世界の地理的な情報を求めて最新の世界図の入手に努めたこと,またとくに西日本の有力諸藩が比較的多くの種類の世界図を所持しており,世界地理に関する関心の度合いが強かった傾向を窺い知ることができる.
|