わが国における環境保全型農業への本格的な取り組みは、まだ端緒に着いたばかりである。農林水産省も平成3年6月に発表した「新しい食料・農業・農村政策の方向」に基づいて、各都道府県にこの農業の実践事例の報告を求めている。しかし、この農業の考え方や概念が必ずしも十分に規定されていない。たとえば、この農業には減農薬・減化学肥料の農業から無農薬・無化学肥料の有機農業まで、また、具体的には筆者はこの農業の一形態として考えている特別栽培米や特別表示米などの増加など、複雑でかつ幅広い考え方がある。この農業の重要性と必要性を強く認識しているものの、都道府県の行政的対応や各農家の実践は、まだ、統一性に欠けている。この点を踏まえて、北海道・東北・関東・北陸・東海・東山の各都道県庁、農林水産省や地方農政局を訪問し、資料の収集や担当者との面談などを実施した。ところが、ここで得られた資料を基に分布図を作成しながら検討すると、実践している事例農家やグループは確実に増加しつつあり、点から面への広がりが期待できる状況になりつつある。しかし、確固たる地域的定着と発展には、この農業を推進する技術的裏付けと組織の整備が求められている。 一方、FAOの報告書ではこの農業の持続的発展は、土地・農場・地方・地域・大陸・世界・地球のそれぞれのレベルで分析・研究しながら、それぞれのレベルで問題を解決することによって成し遂げることが肝要であると指摘している。わが国においてもこの農業の本格的な推進には、近代的農業の果たした役割を確認しつつも、過度な食料増産によって自然環境に与えてきた負荷を軽減する農法と技術の再構築が必要となっている。もちろん、農業の社会的・経済的な価値と役割を、単に経済的・経営的効率のみではないという視点を再認識するとともに、全般的な環境問題の中で環境保全型農業のあり方を検討しなければならない。次年度の研究はこの農業を実践している個別農家やグループを研究しながら、地域的定着と発展の方向性をさらに具体的に明らかにする。
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