研究概要 |
平成6年の5月〜7月にかけて野外調査,計測機器の設置,ならびに観測データの回収を実施した.計13回調査岩壁を訪れ,落石の分布・粒径・個数および積雪の消耗量の測定を行なった.その結果,落石量は5月末の約1週間にピークに達し,そのピークは岩壁の露出面積が増加するピーク期から約2週間遅れることがわかった.また,測定期間の後半ほど礫径が増加する傾向が認められた.落石のほとんどは個別に発生たが,1カ所でブロック状の岩盤の崩落が認められた.岩壁上2地点に設置したデータ収録装置からは,岩盤温度と亀裂変位のデータを回収した.平成6年夏に観測地点をさらに1カ所設定した. 野外観測の結果,凍結膨脹によって節理が開く温度条件について,1つではあるが世界で最初のデータが得られた.データは,冬の最低温期ではなく,春に積雪からの融解水が節理にしみ込み凍結膨脹を引き起こしたことを示しており,水分条件の重要性が指摘される.この結果は,世界の4つの寒冷地域での岩壁の剥離量を観測し,剥離量は寒さの程度よりも水分条件に大きく作用されるとしたMatsuoka(1991)の研究とも整合する.また,実験室内で野外の温度条件を再現し,岩石中の節理の凍結膨脹過程を調べたところ,野外観測と類似する結果が得られた.一方,落石調査から明らかになった融解期の岩盤の露出のピークより落石発生のピークが遅れるという結果,そして次第に落石径が増加するという結果は,深さ4〜5mまで達する岩壁の季節的凍結層の融解が1カ月以上かけて緩慢に進行することを示している.研究成果のうち,岩壁の凍結・融解深度については,Earth Surface Processes and Landforms 誌に発表した.平成7年度は,さらに,岩石節理の凍結膨脹と落石の発生条件との関係についての理解を深めたい.
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