精神遅滞児は、言語活動や抽象的思考の発達に障害が見られ、その結果、算数や国語などの教科教育の指導において、個人の特性に対応した指導法の改善が望まれている。近年、インタラクティブな応答を可能にするCAIが普及してきた。そこで本研究では、精神遅滞児に対してCIAを適用し、心拍変動と脳波の測定によって、能動的学習に伴う注意変動と刺激情報処理の活動レベルに関して検討を行った。課題は一対一対応、カウンティング、一桁の足算とし、アップル社のマッキントッシュ上で動作する算数学習用CAIソフトを作成した。精神遅滞児の注意を制御するため、課題の解決に必要な手がかりや教示は、動画を用いて行った。学習中の精神遅滞時の心拍変動をテレメータにより測定し、学習者の行動、ディスプレイ上の変化、視・聴覚情報との関連を同時系列上で解析した。また各課題条件下での5分間の心拍変動の周波数成分を自己回帰モデルを使ってパワスペクトル解析した。自閉的傾向を示す精神遅滞児3名を対象に約半年間にわたって指導を行った。その結果、CAIの反復実施に伴い一対一対応とカウンティングの成績は改善された。またCAI環境下で、視覚刺激による教示を行った場合、心拍変動の一過性の減速が観察された。心拍変動の周波数成分をパワスペクトル解析した結果、副交換神経系の活動レベルを反映しているとされている0.25Hzの成分が、CAI環境下では出現したが、指導者を介した学習環境下では出現しなかった。対象児が理解した視覚数字刺激に対する応答は、脳波α波の顕著な振幅減衰においても確認された。このことから、CAIの視覚情報は、自閉的傾向を伴う精神遅滞児の課題対象への注意を喚起し、維持するのに効果があったことが指摘できた。また精神遅滞児の学習過程を評価するうえで、生理的指標のモニタリングによる検討が有効であることが明らかになった。
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