空間直観力が重視されるようになった理由を、社会的観点、心理学的観点、数学教育的観点から考察し、次に空間直観力の概念規定を行った。心理学者サ-ストンは、空間観念を「視覚化」、「空間的関係」、「空間的方向づけ」にカテゴリー化しており、各カテゴリーに対して、数学教育の実践の観点から、次の能力を対応づけ、それらの能力の総体として空間直観力を概念規定した。すなわち、「視覚化」には「図形を捉える力」、「図形を構成する力」、「操作を見直す力」、「図形を見抜く力」を、「空間的関係」には、「図形や空間の広がりを捉える力」、「図形を図で表現する力」を、「空間的方向づけ」には、「位置を捉える力」、「空間自由移動能力」を対応づけた。 これをもとに、空間直観力育成のための方法論の改善として「暗幾何」を提唱した。暗幾何を教授・学習過程との関連及び暗算との比較から考察した。第一に、教授・学習過程の関連から、暗幾何は、空間直観力育成のための教授・学習過程の最終段階の練習形態であること、第二に、暗算と同様に、暗幾何とは、道具を用いない幾何である。すなわち、物理的モデルや平面的-図的表現を記憶の支えにせず、唯一、幾何的対象に対する表象と言語的に示された知識だけを道具にする幾何である。 また、平成元年度の学習指導要領を考察し、空間直観力の各能力がどの学年でどういう内容で指導されているかを考察し、その不十分性を指摘した。そして、空間直観力育成の充実のために、完全ではないが、いくつかの空間直観力を育成するための学習活動や教材を提案した。
|