1.データベース制作 研究最終年度にあたり、昨年度に引き続き、19世紀前半(1831〜1860)に発行されたアメリカ合衆国の音楽教科書と明治初期に発行された音楽教科書のデータベース化の仕上げを行った。内容は、(1)各教科書のタイトル、著者、発行所、発行年、掲載曲数およびその特徴(合唱、伴奏、歌詞などの有無)を記録し、さらに、(2)それぞれの教科書に掲載されている教材楽曲のタイトル、作曲者、調子、拍子、小節数、メロディー(数字)、声部、形態について調査・入力した。現時点において、アメリカの音楽教科書80点、わが国の音楽教科書51点を取り上げ、入力した教材楽曲の総数は、アメリカの教科書約5.000曲、日本の教科書約2.000曲に達する。 2.資料検討および資料比較 収集、データベース化した資料のうち、アメリカの文献中、明らかに学校向けとして出版されていない教科書(主として、教会学校や成人向けのもの)を除外し、指導理念、指導方法、教材楽曲の比較を行っていた。その結果、理念においては、道徳性の向上、身体器官の強化といった目的においてわが国とアメリカの教科書に共通性が見いだされたが、宗教的側面においては相違点がみられた。指導法においては、アメリカの当時の中心的教育理念であったペスタロッチ式の音楽教授法をほぼ同様に継承していることが明らかになった。教材楽曲においては、わが国の教科書に掲載されている「アニーロ-リ-」「蛍の光」など比較的多くの教材が、当時のアメリカの教科書に掲載されていることが判明した。 3.研究成果執筆 以上の研究成果に基づき、研究成果報告書を作成中である。報告書の構成は、(1)研究の動機、(2)研究の目的とアウトライン、(3)19世紀前半のアメリカ合衆国の音楽教科書の内容と特徴、(4)明治初期の音楽教科書の内容と特徴、(5)日米の音楽教科書の比較、(6)まとめとなる。巻末には、調査、データベース化した資料を添付・掲載する予定である。
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