1.米国の19世紀前半を中心とした教科書について多くの教科書は、教材と楽譜の体系(楽典)が一緒に含まれている。音楽は健康面、宗教面、道徳面において有益なものであり、ゆえに学校の教科として必要であると謳われている。教材の多くは合唱曲で、長調が多く、ホモフォニック、混声三部編成が中心となっている。 2.わが国の明治期の音楽教科書について教科書の大部分は、教材のみ掲載され、楽譜の体系(楽典)を掲載した教科書は少ない。音楽教育の目的が「道徳心の陶冶」「健康面の増進」と謳われている点、カリキュラムが、聴唱から視唱へとしている点は米国の理念、カリキュラムと酷似している。教材はその大部分が斉唱(単声)であり、長調が多く、合唱教材ではホモフォニックが中心である。 3.米国とわが国の教科書の比較米国、わが国何れにおいても、音楽が人間の健康面、精神面、特に道徳心の育成に寄与する点を掲げているのは共通している。カリキュラム、指導体系においては、どちらもまず聴唱によって音の感覚を育成した後、楽典の内容を「リズム」「メロディー」「ダイナミックス」のカテゴリーに沿って学んでいく。いずれの教科書も、調、拍子、旋律開始音、小節数、編成の各要素においての分布状態が酷似している。日米で共通して掲載された教材も119曲を数え、特にわが国で古くから親しまれている曲には多くの教科書に採用されている。 以上の結果により、わが国の明治期の音楽教育における、19世紀初期の米国の音楽教育の影響は明白で、特に教材、カリキュラムにおいてはほぼ同内容がわが国の学校教育体系の中に根づいていったものと思われる。理念的な内容については、国情の違いにより必ずしも一致するものではなかったものの、カリキュラム及び教材面では特徴を保持したままわが国にそのまま移入されたと言えるだろう。
|