1987年以来、筑波大学とフランス・グルノ-ブル大学との大学間協定による日仏共同研究が実施されてきた。我々の研究グループは、幾何の「証明問題」の解決に注目し、日仏両国の生徒の問題解決過程を調査・分析してきた。我々は、とくに日仏両国での証明問題の困難な生徒の活動を分析し、証明の困難の原因の1つとして「図形の動的見方ができない」ことを明らかにした。 このような研究視点から、本研究の目的は、幾何の証明問題の解決の困難な生徒に対して、コンピュータ・ソフト「カブリ・ジオメトリー」の有効性を実験によって明らかにすることである。 この研究目的に対して、中学校2年生に対して、カブリ・ジオメトリーを利用した教授実験を実施した。実験においては、カブリ・ジオメトリーがもつの機能の中で、とくに「図形の変形機能」を重視した。 実験結果の考察から、次の結論が得られた。 1.「認知的分析」:カブリ・ジオメトリーの利用は、思考実験を通じて図形の動的視野を拡大すること、多様な推測を生み出し証明に対する方向性を与えることを明らかにした。 2.「教授学的場の分析」:生徒によるカブリ・ジオメトリーの利用の目的は、推測を得る手段、論駁に対応する手段、自己の推測の妥当性を得る手段であること、またカブリ・ジオメトリーの利用による教授学的場の設定は、社会的相互作用を促進する方法の1つになることを明らかにした。 以上の「認知的分析」および「教授学的場の分析」の双方の分析によって、幾何の証明問題の解決におけるカブリ・ジオメトリーの有効性を明らかにした。さらに本研究は継続研究が予定されており、平成7年度においては、カブリ・ジオメトリーの「図形の変形機能」に加えて「作図機能」を含めた利用法の開発、またフランス側の実験結果との比較分析を行うことが課題となっている。
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