本研究の目的は、幾何の証明問題の解決の困難な生徒に対して、コンピュータ・ソフト「カブリ・ジオメトリー」の有効性を実験によって明らかにすることである。また本研究は、実験結果を日仏両国で比較分析することをねらっている。この研究目的に対して、平成6年度では、とくにカブリ・ジオメトリーの「図形の変形機能」に焦点を当て、また平成7年度では、「作図機能」に焦点を当て、教授学的実験を実施した。対象生徒は中学校2年生であり、タ-レスの定理を利用して解決できる問題設定を行なった。実験結果から得られた主要な結論は、次の通りである。 (1)カブリ・ジオメトリーの「図形の変形機能」の利用によって、図形に対する「動的な見方」が意識化され、「証明に対する手続き」の主体的な推測活動が行なわれた。 (2)カブリ・ジオメトリーの「図形の変形機能」の利用によって、問題の図形の構造が捉えやすく、解決を導く問題の「特殊化」と「視点の変更」がなされた。 (3)カブリ・ジオメトリーの「作図機能」によって、問題の図形を作図することは、生徒にとって問題に含められる問題の条件と推論の連鎖を認識するために有用である。 (4)カブリ・ジオメトリーの利用によって、日本の生徒は図形の「動的な見方」の強い印象を受け、フランスの生徒は、図形に対する“visualization"を支援された。 (5)カブリ・ジオメトリーの利用法についての「教授学的場」の分析から、カブリ・ジオメトリーは生徒にとって「推測を得る手段」、「論駁に対応する手段」、「推測の妥当性を得る手段」として利用されること、またカブリ・ジオメトリーを利用した「教授学的場」の設定は、社会的相互作用を促進する方法となることが明らかになった。
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