本年度の研究は、ハイパーカードを用いた社会科教材の開発を目指しての一連の研究の最初の段階として、アメリカで高等学校の生徒用に開発された『地理への挑戦』と『ベトナム戦争』の2つの教材を取り上げ、その教材構成の論理を解明するとともに、ハイパーカード教材のメディアとしての特性についても、検討した。成果は以下の通りである。 (1)『挑戦』は、位置/方向、土地/気候、資源/経済、文化/人口の4カテゴリーから成る3レベルの地理的な知識を、それらに関する質問をランダムに与えられ、正解すれば双六でレベルに応じて進み得点を与えられ、誤答すれば戻らされ、ヒントはあるが減点を伴うと言ったように、ゲーム感覚で地理の知識を獲得出来るものとなっている。獲得される知識のレベルは高くないが、地理教育に対する取り組みが十分ではないアメリカの高校の現状からすれば、生徒に地理に関心をもたせ基礎的知識を与えるという意義はある。だが、地理学の5大テーマとそれに対応した地理的な見方や考え方からなる地理教育ガイドラインンなどと比べるならば、かなりオールド・ファッションな点は否めない。 (2)『戦争』は、ベトナム戦争に関する、通史的なトピックス、一般的なトピックス、そして人物の3つのカテゴリーに分類された、61のテーマから構成されている。それぞれが1〜17枚のカードとそれからボタンで呼び出す事が出来る資料群から成る。カードの形で提示されるテキストそのものがハイパーメディアとしての特性を持つ。即ち、本文中の重要な語句は太字で示されそれ自体が1つのボタンと成っている。この結果、『戦争』は、ベトナム戦争についてハイパーカードの特性を活かし関連ある情報を縦横に駆使出来るものになっており、かつ、歴史教育の3つのアプローチをリンクさせて歴史のテーマ学習として内容構成を考える上で大変意義あるものと成っている。
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