研究概要 |
統計的多変量解析における推測では、取り扱う統計量の標本分布を正確にかつ数値的に計算可能な形に求めることが困難なため、この漸近展開に基づく近似を用いて推測を行わざるを得ない。本研究の課題は、理論的でなく、漸近展開近似の実際的妥当性を研究し,ユーザに実用的指針を示すことを目的として計画したものである。 漸近展開公式は標本の大きさ,次元数,非心パラメーターに依存しており,従ってその精度はこれらの関数である.この研究では,精度として展開公式の真の値に対する絶対誤差でとらえ、その上限を数学的ではなく数値実験的に構築する方法を開発した.この問題は甚だ複雑で、一般的な場合にも適用できることを考えながら、具体的にHotellingのT^2-検定のOC関数に対する漸近い展開公式の絶対誤差の実際的に有効な実験的近似上限を構築した。平成6年度は暗中模索の年度であったが,解決できる光明を得ていた。2年目の平成7年度に至り有用な実験的近似上限を具体な形で与えることに成功した。 この結果は可成り有用で、漸近展開近似公式の精度と標本の大きさとの関係を次元数と非心パラメーターの関数として表現することを可能にし、推測の具体的設計を行うことを可能にした。また検定要求を満たす検定方式を漸近展開公式に基づいて設計した場合、その実際的妥当性をチエックすることも可能になった。これらの成果は日本統計学会および日・米合同研究集会で発表された。 成果として重要なことの一つは、有効な上限公式を構築する方法が開発されたことである。これは直ちに判別分析における誤判別確率の場合に適用され目下進行中である。 準備段階のものとして、母集団分布が多変量楕円分布である場合、実験計画に基づく特定の共分散行列構造を持つ場合の成果も得られている。
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