研究概要 |
従来より,ハードウェア製品の製造工程における品質の安定性を評価する方法として,管理図(control chart)法が提案されてきた.管理図法とは,統計的品質管理(statistical quality control)のための一手法であり,製品の品質特性のばらつきの発生要因を,管理図を用いることによって,異常原因と偶然原因に区別し,異常原因が発生した場合には工程に対する適切な処置や改善案を施し,工程の状態を恒常的に良好な状態(管理状態)に維持しようとする方法である.また,管理図は,工程の状態を表す品質特性値の時系列変動を打点したグラフであり,1本の中心線と,その上下に1対の管理限界線が引かれている.品質特性値のばらつきが,管理限界線を越えたり,打点状態に特異なくせがあるようであれば異常原因が発生したと判断するのである. このような,品質の安定性を評価する管理図法の考え方を,ソフトウェアのテスト工程における出荷品質の達成度合の把握や,テスト工程の安定性およびテスト進捗状況の評価に応用することは,十分に意義があり実際問題としても必要とされている. 本研究では,品質・信頼性評価のための代表的なソフトウェア信頼度成長モデルとして,ゴンペルツ(Gompertz)曲線モデルと,非同次ポアソン過程(nonhomogeneous Poisson process)に基づく指数形ソフトウェア信頼度成長モデル(exponential software reliability growth model)および遅延S字形ソフトウェア信頼度成長モデル(delayed S-shaped software reliability growth model)を用いて管理図を作成し,テスト工程で実際に観測されたデータを適用して,テスト進捗度の良好さやテスト工程の安全性を評価するための管理図法について議論した.すなわち,それぞれ各モデルから導出される平均瞬間フォールト発見率,瞬間フォールト発見率,および相対的瞬間フォールト発見率が,テスト時間との関係において対数線形性を有することに着目し,観測されたフォールト発見数データをこれらのモデルに適用して回帰分析を行い,これらの統計的信頼限界を管理限界とする管理図を作成した.さらに,実際データによる具体例も検討した.これにより,ソフトウェア製品についても,良く管理されているテスト工程に対して,本管理図の有用性が確認できた.
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