本年度の計画にしたがって研究を実施した結果以下の成果を得た。 1.神経発火パターンより、聴取音を再現する音響シミュレーション 前年度までの電気刺激を直接音響信号(有色雑音)に対応づける方法では原理的厳密性が欠如しているという反省の下に調査したところ、聴覚モデルの逆過程(すなわち音響信号から聴覚末梢系を辿って聴神経発火パターンに至る過程を逆方向に辿って聴神経発火パターンから音響信号を得る)によって厳密な解が得られることが判明した。現在この過程をソフトウェアとして実装中である。また、この方式は難聴および病的聴覚の模擬実験の課題にも適用できる。 2.音声情報の超圧縮・圧縮した音声品質の評価 コクレア方式の埋め込み電極に対応した刺激信号を音声信号から抽出する方式として、音声圧縮符号化方式を本電極の制約条件下で最適化する方法を理論的に定式化することができた。電極数22、電極位置固定すなわち対応周波数固定かつ離散的、刺激電流強度の分解が過少、一時に一箇所のみ逐次的かつ約1ms以上の間隔を空けて刺激するなどの制約条件がある。予備実験の結果より、刺激間隔とチャネル選択が相補的でありかつ自由度が大きいことがわかった。すなわち、刺激間隔が自由に選べるのであればチャネルは固定でもよい。刺激間隔が極端にピッチ周期に限定されるのであれば、ほぼ完全なスペクトル情報を再現するだけのチャネル数が必要である。所与の条件下では刺激間隔およびチャネルを同時に最適に指定する必要がある。本研究では特定チャネルの電流刺激を適当な仮定の下で波形単位を定めてこれらを必要な間隔を空けた上で最適な位置に配置するためのアルゴリズムを求めた。
|