異常分散領域で「群速度」が光速を超えてしまう基本的な問題を、アルヴェン波の中性粒子による異常分散を利用して、理論、実験の両面から解決しようというのがこの研究の目的である。実験は波束パルスを小型アンテナに入射することによりシア・アルヴェン波波束を励起し、磁力線に沿って伝播させ、波束のピーク速度、中心周波数の変化を磁気プローブで測定した。その結果、中心周波数が異常分散領域近傍では波束のピーク速度は従来の群速度より大幅に下回り光速を超すことはなく、一方中心周波数は伝播とともに低周波側にシフトすることがわかった。 これら二つの特徴を、田中等によって最近理論的にもとめられている新しい波束の平均速度と比較した結果、誤差の範囲でよい一致をみた。また、この理論では従来の群速度の定義と異なり、中心周波数の変化を考慮しているが、この中心周波数の変化を実験条件を基に焼き直して実験結果と比較した結果、中心周波数の低周波側へのシフトも理論と極めてよい一致を見た。 以上より、アインシュタインの特殊相対性理論がでて以来90年間に渡り様々な議論を呼びながら未解決であった「群速度」の問題がこの研究により解決をみたといってよいであろう。 この研究の目的は以上でほぼ達成されたが、残された問題として、中心周波数が吸収共鳴周波数近傍でかつブロードスペクトルな波束を入射した場合、波束の分裂が実験的に観測されている。この分裂も新理論を根拠に解決できるものと考え、現在更に研究を進めているところである。
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