トリチウムガス酸化菌が土壌にどのようにどの程度分布しているかその実態を明らかにする目的で、栄養素の種類と濃度の異なる3種の培地を用いて土壌の總生菌数を求め、その土壌から分離したトリチウムガス酸化能を持つ細菌の出現率から環境土壌での分布の実態の解明を行なった。土壌材料としては、1994年夏にカナダAECLのチョークリバー研究所の実験圃場で行なわれたトリチウムガス野外連続放出実験に著者らが参加した折りに採集し持ち帰った土壌を用いた。実験圃場の自然地と耕作地から土壌は表層から5cmきざみで深さ20cmまで採集された。土壌のトリチウムガス酸化活性は自然地では表層0〜5cmが最も高く、深さが増すにつれ急速に低下した。耕作地では、酸化活性は自然地の約1/3で、深さ変化は見られなかった。これらの土壌試料からトリチウムガス酸化細菌の分離を行なった。自然地の最表層土壌(0-5cm)の3種類の培地による總生菌数は1グラム当り5x10^7個で、その22%がトリチウムガス酸化活性を持っていた。耕作地の最表層土壌では總生菌数は3x10^7個/g土壌で、その7.5%がトリチウムガス酸化活性を持つ細菌であった。土壌のトリチウムガス酸化活性の深さ分布とその土壌中のトリチウムガス酸化菌の推定分布数によい相関が見られ、これらの土壌細菌が土壌におけるトリチウムガス酸化の実体であることが明かとなった。トリチウムガス酸化菌の出現率は培地により異なり、得られた269株のトリチウムガス酸化菌株のうち放線菌が約60%、その他のグラム陽性菌が30%で、グラム陰性菌は少ないことなどから、実験圃場の土壌におけるトリチウムガス酸化菌は、多様な細菌種よりなることが判った。トリチウムガス酸化菌分離株のうち代表的な放線菌9株について化学分類法等による属の同定と各種の生理生化学的性質の検討による種の同定を行なった。
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