研究概要 |
我国各地の種々の富栄養化段階の水域についてPolypedilum属ユスリカの種構成を調べて富栄養化段階に対応したPolypedilum属出現種スペクトラムを作成するとともに、本属各種に特異的なヘモグロビン遺伝子塩基配列を明らかにすることにより、迅速かつ正確なユスリカの同定に基づく水質判定を試みた。 その結果、河川の早瀬ではaviceps,pedestre等→hiroshimaense等→japonicum,surugense等→tamaharaki等→convictum→paraviceps等→okigrandis、河川の淵ではtamahosohige等→asakawaense等→togaexpansum等→nubeculosum等、湖の岸よりでは、masudai等→cultellatum等→nubiferのような出現種スペクトルラムが推定された。 一方、Polypedilum属種特異的Hb遺伝子塩基配列の検索については、それぞれ本属の別群に属するcultellatum,japonicum、nubeculosum及びnubiferの相同成分の遺伝子クローニングを試みたところ、nubiferのmonomeric Hbの一成分(PNf-MV)についてのみ成功した。そのため、PNf-MVの推定されるグロビン鎖アミノ酸配列を既に報告されているヨーロッパ産Chironomus thummi thummi(CTT)のHb12成分のそれと比較したところ、N末端及びC末端に近い部分に比較的長いよく保存された領域があることがわかった。そこで、この2つの領域のアミノ酸配列に対応するdegenerative primersを作成し、各種幼虫から調製したtotal RNAを鋳型としたRT-PCRを行ったところ、目的の86アミノ酸残基に相当する約260bpのDNA断片が増幅された。現在、これらの残基配列を決定し、種の同定に利用できる種特異的配列を検索しているところである。
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