鹿児島湾における野外観察と、室内実験により以下のことが明らかになってきた。まず潜水観察によって、桜島火山の降灰があると鹿児島湾の表面海水中に多量の大型懸濁物(マリンスノ-)が発生し、時間と共に海底に移動し、やがて消滅していくことが観察された。また、このとき現場で採集された懸濁物は火山灰を多く含み、かつ沈降速度が相対的に早いことも室内実験と顕微鏡観察によって確認された。すなわち、海水に入った火山灰粒子は大型懸濁物の生成を促進し、その結果海水に懸濁しているプランクトンやデトライタスを含む微小粒子が海底に鉛直輸送されることが明らかになった。さらに室内実験によって火山灰が海水に与える影響を考察した。海水に溶存している有機物は、泡などに吸着することが知られているが、濾過海水に火山灰粒子を加えて泡立てると、火山灰粒子に有機物が吸着することが元素分析によって確認された。すなわち、火山粒子は海水に溶存する有機物を粒子に転換させるものと考えられる。また、プランクトン等の有機懸濁物を含む海水に火山粒子を加えると、表面に懸濁する粒子状の有機物が沈降しやすくなることも元素分析によって確かめられた。次に濾過海水に火山灰を加えて、海水中の栄養塩濃度の変化を調べた。その結果、火山灰が濾過海水と接触すると、短時間(1時間)のうちに火山灰からアンモニアと硝酸が溶出することがわかった。この海水を3日間以上放置すると燐酸とケイ酸も溶出するのことも確認された。火山灰の主成分は火山ガラスであるが、火山ガスに含まれる成分の影響が考えられる。以上、火山灰は海水に入ることにより、植物プランクトンの生産と生態系の物質循環に影響を与える可能性が示唆された。
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