研究概要 |
富山県内の7地点(81本)と福井県敦賀市内の6地点(13本)のスギ切株から採取した円盤状の試料を,十分に研磨した後に実体顕微鏡下で年輪幅を測定した。年輪幅の推移をグラフ化した後に,年輪幅の標準曲線(福井県下のデータもとに作成したもの)を用いて,伐採年を確定し,偽年輪や年輪欠損の可能性について検討した。年輪幅の推移を指数曲線で近似することにより樹齢の影響を補正した後に,重回帰分析によって気象要因を除外したものを標準化年輪指数と定義し,この値と大気汚染との関連を二つの地域で検討し,以下の知見を得た。 1.富山県内のスギ年輪幅(標準化年輪指数)は1960年代の末から1970年代の前半にかけて低値を示しており,その推移と大気中の硫黄酸化物濃度や硫黄酸化物排出量との間には,有意な負の相関が認められた。 2.敦賀市内で採取されたスギも,1960年代末〜1970年代前半に標準化年輪指数が低い値を示している。1960年代の後半には汚染レベルのモニタリングが行われていないため,大気汚染と年輪幅との関連を直接的に検討することはできなかった。しかしながら,敦賀市では工業出荷額の対全国比が,この時期に急増しており,大気汚染が最も深刻化していたと考えられ,標準化年輪指数の推移と大気汚染との関連性が示唆された。 3.スギの年輪幅におよぼす気象条件の影響を検討する中で,富山県の平野部と福井県の嶺北地方および嶺南地方のスギ年輪幅の推移は基本的に同一のパターンを示すことが証明された(p<0.001)。一方,互いに数十kmしか離れていない富山県内の平野部と山間部では,年輪幅のピークにしばしば逆転が見られた。この原因として,平野部における大雪の寄与が推察された。この事実は,日本で年輪年代学的な手法を厳密に適用する上で注意すべき点を示すとともに,古気象の解析のための新たな手段を提供するものと考えられる。
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