研究概要 |
富山県内の2市3町でスギの切株から採取した約20本のコアサンプルを研磨後,年輪幅測定・解析システム(LINTAB-TSAP)を用いて測定および解析を実施した.昨年度中に採取したコアサンプルのほか,既存の試料とあわせて取りまとめを行った.得られた結果は,以下のようなものであった。 1. 樹齢や気象条件を補正した後に,大気汚染がスギの肥大成長におよぼす影響について検討した.その結果,1960年代後半〜1970年代前半の大気汚染レベルが高かった時期に成長が悪く,汚染レベルの低下とともに肥大成長がある程度回復していることが明らかになった. 2. 重回帰分析の結果,硫黄酸化物,窒素酸化物,オキシダントの中でスギの肥大成長に最も影響をおよぼしていたのは硫黄酸化物と考えられた。 3. 富山県内の平野部に生育するスギと標高約1000メートルの山間部に生育するスギは基本的に同様な年輪幅の変動パターンを示している.しかしながら,例外的に両者の位相が逆転する年があった.この点について検討したところ,冬期間の降雪タイプの相違(山雪型と里雪型)が原因となっていると考えられた.これは,積雪地帯で年輪年代学的な研究を実施する場合に局地的なバイアスを避けるためにも重要な知見であるとともに,年輪古気象学的にも興味深い事実である.
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