本年度は、鮒肝臓中のメタロチオネイン(MT)動態について重金属、ストレス、ホルモンによる誘導様式を解析し、さらにこの蛋白を指標にした高感度測定系の確立に向けて研究し、以下の成果を得た。鮒を1ppm塩化カドミウム水中で6日間飼育すると飼育早期に肝臓や腎臓のMTが顕著に誘導され、後期には小腸においても強い誘導が認められたが、鰓には弱い誘導しか見られなかった。このことよりカドミウム毒性に対する解毒には哺乳類と同様に肝臓が重要な役割を果たすことが明らかになった。この応答はカドミウム濃度に依存しており、0.01ppmではいずれの誘導量も著しく低く、環境汚染の生物学的モニタリングには抗体を用いた高感度酵素免疫測定法が必須であった。MTの生理作用や分子種間(MT-1、MT-2)の誘導様式は未だ不明な点が多いため、鮒を用いて種々の誘導現象を解明した。金属(カドミウムや亜鉛)では類似の誘導パターンが観察され、MT-2が極めて優位に誘導されたが、グルココルチコイドではMT-1も顕著に誘導された。これらのことから生体防御蛋白の一つであるMTの鮒における発現誘導に関する遺伝子レベルの解析はヒトにおけるこの蛋白の生理作用解明の一助になると考えられ、この点でも研究を展開している。さらに、昨年度の研究でストレスが肝臓、腎臓でMTを誘導することを明らかにしたが、この場合もホルモンと同様にMT-2と共にMT-1が強く誘導されることが明らかになり、重金属の解毒のみならず、環境適応(汚染も含めて)においてもMTが重要な役割を果たすことが強く示唆された。鮒MTの微量測定系は水系環境の汚染を早期に評価できるシステムであり、さらに小型の淡水魚への応用も可能と考えられ、今後フィールドワークへの展開を計画している。現在、MT-1、MT-2の分別微量定量系の確立を急ぐと共に、同時にこれまでに得られた多くの成果を投稿論文としてまとめている。
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