本研究課題では、主に(1)哺乳類メタロチオネイン(MT)の高感度酵素免疫測定法(ELISA)の開発(2)淡水魚、特に鮒のMT特異的ELISAの確立(3)鮒MT動態と環境汚染評価について研究し、以下の知見を得た。(1)MTの高感度酵素免疫測定法(ELISA)は未だ実用化のものはなく、MT蛋白分子の特殊性が指摘されている。そこで魚MTに対するELISA系の確立に先だってラットMT-ELISA系の確立と細胞レベルでの毒性解析への応用を試みた。確立した測定系は固相化抗原を用いる競合ELISAであり、2つのアイソフォーム(MT-I、MT-II)ともに認識し、その測定限界は3ng/mlであり、これまでのRIA法に匹敵するものであった。本法を用いてラット小腸上皮細胞株IEC-6細胞の重金属毒性とMT動態を解析し、カドミウムや亜鉛毒性への耐性及び壊死直前の顕著なMT誘導を明らかにした。しかし、本系は魚MTを全く認識せず、魚類を用いた環境モニタリングには応用できなかった。(2)淡水魚として全国に生息する鮒を用いて、肝臓MTの精製、分子種の同定、抗体の作製を行った。鮒MTにも2分子種(MT-I、MT-II)が存在したが、MT-IIに対して作製した抗体はMT-Iを認識せず、哺乳類との差が明らかになった。鮒MT-II特異的ELISA系の感度は高く、また測定時の妨害を少なくしたシステムを構築したので、今後環境中に生息する鮒を用いたフィールドワークに利用する予定である。(3)重金属、ストレス、ホルモンによる鮒肝臓中のMT誘導様式を解析し、カドミウム毒性に対する解毒には哺乳類と同様に肝臓が重要な役割を果たすことを明らかにした。さらにこれら環境要因に基づく鮒MTの誘導現象を解明し、金属では類似の誘導パターン(MT-II優位)が観察され、グルココルチコイドやストレスではMT-Iも顕著に誘導された。これらのことから生体防御蛋白の一つであるMTの鮒における発現誘導に関する解析はストレス性の誘導も含めて水系における環境要因の生物学的モニタリング法として有用であることが示された。
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