研究概要 |
本研究は昭和43年から45年に行った原爆被災復元調査により確認された78名の500m以内原爆被爆者を基軸にしての細胞遺伝学的ならびに分子生物学的研究を行っているものである。本年度は新しく開発したFluorescence in situ hybridization(FISH法)による近距離被爆者の線量の推定法ならびに同法による原爆被爆者白血病細胞に見出されるモノソミ-7の検出について研究を行った。 I.FISH法による被曝線量の推定-とくに細胞遺伝学的結果との比較 重遮蔽のため物理的線量推定(ABS93D)はなされていないが、染色体分析の結果、生物学的線量推定が行われている3名(0.4km,0.5km,1.0km被曝)を対象とした。9対の染色体を2色に着色(5対を赤色、4対を緑色)した場合と6対の染色体を2色に着色(3対を赤色、3対を緑色)した場合とも,3名の染色体異常率は、これまでのG分染所見に基づく異常率と大体一致していることがわかった。この結果より多数例について短時間内に概略的被曝線量を推定するのに本方法は有力な武器になることが明らかとなった。また、染色体分析を行わずとも間期核細胞で転座頻度も推定可能であることをin vitro実験結果より明らかにした。 FISH法による原爆被爆者白血病モノソミ-7の頻度推定 分子細胞遺伝学的研究において1Gy以上被曝した人に発生した急性骨髄性白血病細胞には複雑な染色体異常があり、特に-5や-7が多いことをすでに報告したが、最近通常分析法では検出されずFISH法でのみモノソミ-7が検出されることが解ってきた。1Gy以上被曝した4名に本法を適用したところ、2列に"かくれた"モノソミ-7が検出された。このことは被爆者白血病におけるモノソミ-7は白血病発症に何らかの形で強く関わっているものと思われる。
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