本研究は昭和43年から45年に行った原爆被災復元調査により確認された78名の500m以内原爆被爆者を基軸にしての細胞遺伝学的ならびに分子生物学的研究を行ったものである。本年度は一昨年開発したFluorescence in situ hybridization(FISH)法を原爆被爆白血病症例に適用し興味ある所見を得た。また、近距離被爆者の追跡調査より髄膜腫の多発が考えられる所見を得た。 I.原爆被爆白血病細胞のFISH法による解析 5.2Gy被曝し、その後急性骨髄性白血病となった63才の女性患者の染色体分析とFISH法による解析を行ったところ、染色体は44本で、14ヵ所に異常を示す複雑な核型を示した。FISH法による分析では、ABL遺伝子が5ないし6コピー(正常2コピー)に増加しており、いくつかの染色体にABL遺伝子が転座していることがわかった。この現象は世界で始めてのものである。さらに、CD3遺伝子について検討したところ、この遺伝子も増幅していることがわかった。 II.近距離原爆被爆者の追跡調査 現在生存している36名について追跡調査したところ、1名がT細胞性リンパ腫、2名が髄膜腫に罹患していることが判明した。後者は元来頻度の低い疾患であり、近距離被爆者2名に発生をみたことは放射線誘発の可能性が強い。このため、広島市内で1980年以降、髄膜腫と診断された280例を蒐集した。放射線との関連について今後解析を行う。
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