研究概要 |
本研究は昭和43年から45年に行った原爆被災復元調査により確認された78名の500m以内原爆被爆者を基軸にして細胞遺伝学的ならびに分子生物学的研究を行ったものである。 3年間の研究実績の概要は I.爆心地域原爆被爆者の追跡調査 毎年行っている追跡調査では、この3年間に6名死亡(骨髄性白血病、T細胞性悪性リンパ腫、腎盂腫瘍、各1名、脳血管障害3名)2名の新たな癌(ともに大腸癌)の発生をみた。78名中29名が存在している(平成6,7,8年)。 II.FISHによる被爆線量推定法の確立 重遮蔽のもとに500m以内で被爆し生存している人の物理的線量推定は不可能である。6対の染色体を2色に着色(3対を赤色、3対を緑色)するFluorescence in situ hybridization(FISH)法による染色体異常率はこれまでのG分染所見に基づく異常率と概ね一致しており、多数例を短時間内に被爆線量を推定するのに有力な武器であることを証明した(平成6年)。 III.大線量被爆者に髄膜腫が高頻度に発生していることを証明 平成6年度までに比較的稀な腫瘍と考えられる髄膜腫が36名中2名に発生していることに注目し、1975年から1992年までに発生している被爆者髄膜腫38名(対照607名)の解析を行い、被爆者では5年毎に有意に増加しており、被曝線量ともよく相関していることを明らかにした(平成7、8年)。 IV.大線量被爆者白血病の分子細胞遺伝学的所見は非被爆者群と異なる 爆心地被爆者を含めた1Gy以上の白血病患者細胞は複雑な染色体異常が多く(p<0.05)、白血病型特異的転座が少ない(p<0.005)、RAS遺伝子変異が少ない(p<0.07)、MLL遺伝子再構成が少ない(p<0.03)、p53異常が少ない(p<0.07)などの特徴があり、通常の白血病化機構と大きく異なっていることが示唆された(平成6,7,8年)。
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