(1)マウス胸腺細胞に対するメチル水銀の作用を膜電位感受性蛍光色素および細胞内カルシウム蛍光指示薬を用いて検討した。メチル水銀は1μM-30μMの濃度で用量依存性に胸腺細胞を過分極させた。この過分極反応は、カルシウム依存性カリウムコンダクタンス阻害薬であるカリブドトキシンやキニ-ネにより抑制されたが、電位依存性カリウムコンダクタンス阻害薬のテトラエチルアンモニウムや4-アミノピリジンでは抑制されなかった。細胞外カルシウムイオンの除去はメチル水銀による過分極反応を減弱させた。外液カルシウムイオン除去下にA23187で前処理した胸腺細胞では、メチル水銀による過分極反応は消滅した。正常液でも、カルシウム除去液でも、メチル水銀は細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させた。これらの結果から、メチル水銀は細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させ、これがカルシウムイオン依存性カリウムコンダクタンスを活性化させ、過分極を起こす事が示唆された。細胞膜電位の変化がリンパ球の生理的な機能と結び付いている事は知られており、環境汚染物質による細胞膜電位の変化は細胞に対する毒性機序の一つと考えられる。 (2)ラット小脳顆粒細胞の酸化的代謝に対するメチル水銀の作用を過酸化水素感受性の蛍光色素および細胞内カルシウムイオン蛍光指示薬で検討した。メチル水銀は細胞内カルシウムイオン上昇させ、その結果として酸化的代謝を促進させる可能性が示唆された。
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